〜糖尿病の食事療法・運動療法について
当院では管理栄養士による栄養指導、栄養相談を毎週木曜日午前中に行っています。管理栄養士に、糖尿病の方が気をつけるべき生活習慣について以下にまとめてもらいました。
食事療法
・エネルギー摂取量
1日に必要なエネルギー量を確保すると同時に適切な体重を維持するためにエネルギーの過剰摂取にならないようにします。
食事から摂取するエネルギー量は、身長と日常の活動量や肥満度を元に計算します。
成人では1日のエネルギー摂取量の算出方法は以下の計算式で求めます。
エネルギー摂取量(kcal)=目標体重(kg)×身体活動量
目標体重
65歳未満:目標体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
65歳以上:目標体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22~25
身体活動量
軽い身体活動量(ほとんどが座位の静的活動)=25~30
普通の身体活動量(座位中心だが通勤・家事・軽い運動)=30~35
重い身体活動量(力仕事・活発な運動習慣がある)=35~
これらを当てはめて、個々に合わせた適切なエネルギー摂取量を算出します。
・バランスよく食べる
糖尿病の場合は、血糖値が高いからと言って糖質を抜くのではなく、基本的には適切な量をまんべんなく摂取することが大切です。食事の中の「炭水化物・たんぱく質・脂質」を三大栄養素と言い、体を作る元や体を動かすためのエネルギー源となっています。糖尿病の治療食の栄養素配分に決まりはありませんが、総エネルギーの50~60%を炭水化物から、20%をたんぱく質から、20~25%を脂質から摂取することが目安として推奨されています。
・炭水化物
炭水化物は糖質と食物繊維からできています。糖質の過剰摂取は血糖値を上昇させたり、インスリンの働きを弱めてしまったりするため、よくありません。一方、食物繊維は穀物や野菜に多く含まれ、食物の消化吸収をゆっくりにする効果があります。食物繊維は1日20 g以上を目標に摂取します。食物繊維を摂取することで同時に摂取した糖分の吸収が遅くなり、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。
20gの目安は野菜を350~400g、キャベツ1玉、納豆6パック、そば4人前となります。この量を食べることは難しいので、効率よく摂取するためにも野菜を積極的に食べる他、白米より玄米を選んだり、副菜に根菜類や海藻類を選んだり、汁物にキノコや野菜をたっぷり入れるなどの工夫をしてみると良いかと思います。
・たんぱく質
筋肉や臓器の元となったり、酵素やホルモンとして体の働きを整えたり、エネルギー源にもなります。魚介類、大豆製品、卵、肉類、乳製品などに含まれますが、動物性食品と植物性食品を組み合わせて、どちらかに偏りすぎないようバランスよく食べましょう。
・脂質
エネルギー源となりますが、過剰摂取の場合は脂肪として貯蓄されてしまいます。最近の日本人は食の欧米化が進み、特に動物性脂肪の摂取量が増加しています。これらの食生活は2型糖尿病の増加の大きな原因となっており、適正な脂質の摂取量、必要な油の種類を把握することが重要です。
・1日3食同じ時間に
3食のうち1食を抜いてしまうと、1回の食事が多くなったり、抜いた後の食事後の血糖値が高めになったりしてしまいます。基本的には1日3食を心がけて、毎日なるべく同じ時間に摂るようにしましょう。
・ゆっくり食べる
早食いをすると満腹中枢が反応するまでに時間がかかり、つい食べ過ぎてしまいます。
また、よく噛んで食べることで血糖値の上りを緩やかにします。
食事をするときはよく噛んで、ゆっくり食べるようにしましょう。
・食べる順番に気を付ける
食事をする時は、野菜類などの食物繊維やたんぱく質を先に摂取するようにしましょう。
野菜を先に食べることで血糖値の上りが緩やかになるだけでなく先に野菜を食べることで空腹感が抑えられ食べ過ぎ防止にもなります。
また、お肉や魚を先に食べて最後に主食を食べることで胃の運動をゆっくりにし、効率よくインスリンを分泌して食後の血糖上昇を緩やかにします。
・個々に合わせた指導
医師から指示が出たエネルギー摂取量を目標に、1人1人の食事内容や間食、食事の摂り方(速さ・人数)をお聞きし、個々に合わせた指導を行います。
栄養指導前に3日間ほどの食事内容を記録していただきます。普段の食事を写真に撮っていただき、その写真を元に栄養指導を進めていきます。
糖尿病の場合は、血糖値が高いから糖質を抜くのではなく基本的には適切な量をまんべんなく摂取することが大切です。
糖尿病交換表などを用いながら、今の食事の中で足りない食品群を把握し、どんな食材に糖質が多いのか、個々の適切な量とはどれくらいなのか、把握している知識が正確な情報であるかどうかなど、いろいろなお話をさせていただきながら一緒に考えていきます。
今までの摂取カロリーから目標カロリーに近づけるため、個々の生活スタイルに合わせて変えられることから少しずつ取り入れていくようにしております。
運動療法
体重が過剰な場合は適正体重にすることが大切です。食事をしっかり3食摂って運動をすることで適正体重に近づけます。
1回15~30分程度の運動を1日に2回、毎日継続できると良いですが、少なくとも週に3回以上行うと良いとされています。1日2~4 km、3000~6000歩程度のウォーキング、他にもラジオ体操や水泳などで体を動かしてエネルギーを消費すると良いでしょう。
また、膝や腰が悪くなかなか運動ができないという方には椅子などを使ってできるエクササイズやストレッチをお伝えしております。
個々で適切な運動を取り入れることで、無理なく継続することができます。
- 運動中に低血糖を引き起こす可能性があるので、医師の指示に従い補食を持ち歩きながら運動することをお勧めします。また、足に傷がある時は悪化する場合もあるので気を付けましょう。
- 空腹時血糖250 mg/dl以上の方や、尿中ケトンが多い方、心疾患のある方、糖尿病性腎症3期以降、糖尿病性網膜症がある場合は運動を控えてください。
- この記事は、日本糖尿病学会 編・著の「糖尿病 治療の手引き 2020」を参考に記載しました。
- 食事については、日本糖尿病学会 「健康食スタートブック – 生活の質向上をめざして – 」が参考になるかもしれません。
(https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/kenkoshoku_startbook/kenkoshoku_startbook.pdf)